Japanische Klassiker mit Furigana
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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Lesen Sie 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) von 小酒井 不木 (こざかいふぼく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 196.140 Zeichen · 396 Bildschirme
肉腫
一
「残念ながら、今となっては手遅れだ。もう、どうにも手のつけようが無い」
私は、肌脱ぎにさせた男の右の肩に出来た、小児の頭ほどの悪性腫瘍をながめて言った。
「それはもう覚悟の上です」と、床几に腰かけた男は、細い、然し、底力のある声で答えた。「半年前に先生の仰せに従って思い切って右手を取り外して貰えば、生命は助かったでしょうが、私のような労働者が右手を失うということは、生命を取られるも同然ですから、何とかして治る工夫はないものかと、大師様に願をかけたり、祖師様の御利益にすがったり、方々の温泉を経めぐったりしましたが、できものはずんずん大きくなるばかりでした。もういけません。もう助かろうとは思いません……」
傍に立って居た妻君の眼から、涙がぽたぽたと診察室のリノリウムの上に落ちた。真夏の午後のなまぬるい空気が、鳴きしきる蝉の声と共に明け放った窓から流れこんで来た。私は男の背後に立って、褐色の皮膚に蔽われた肋骨の動きと共に、ともすれば人間の顔のように見える肉腫の、ところどころ噴火口のように赤くただれた塊の動くのを見て、何といって慰めてよいか、その言葉に窮してしまった。