Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme
年老った仲間の惣兵衛というのが、風呂桶へ水を汲みこんでいたが、
「お、お稲様か。……若旦那はそこのお書斎にいらっしゃいますよ」
と、何か心得顔にうす笑いしながら教えた。
お稲の声を知ると、幸右衛門はすぐ書斎をあけて濡れ縁に出て来た。幸右衛門はここの養子だった。小野寺十内の姉が嫁いだ先の大高家に生れ、生家は兄の源吾がつぎ、次男の彼は、叔父にあたる十内の養子となって、まだ部屋住の身であった。
「何か、世間で、騒々しいうわさをしていますが、幸右衛門様は、まだ何もお聞きになりませんか」
駈けて来たせいもあろうが、お稲の顔いろこそ、血の色に躁いでいた。声を嚥み、動悸を抑えながら、告げるのだった。
「――ゆうべも、また今朝も、赤穂のほうへ、浅野家の方たちが、早駕にのって、次々に急いで行ったとやらで、町の衆が、いろいろ噂をしておりますが」
お稲は、二条に住む歌人金勝千秋の娘だった。十内も妻の丹女も、風雅のたしなみがあるので、歌の会、茶の莚など、折々に招きあっている。――幸右衛門とお稲とも、その風交のあいだに知り初めただけのきれいな交わりに過ぎなかったが、それに恥じないにせよ、どっちの家も厳格なので、やはり葉がくれの花のように、人目は惧れあっていた。