Japanische Klassiker mit Furigana
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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Lesen Sie 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) von 小酒井 不木 (こざかいふぼく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 196.140 Zeichen · 396 Bildschirme
恐怖は大東京の隅々まで襲った。あるものは恐怖のために、生きようとする努力を痲痺せしめて自殺した。あるものは同じく恐怖のために発狂して妻子を殺した。又、精神の比較的健全な者も、種々の幻覚に悩んだ。たといそれが白昼であっても、白く塵にまみれた街路樹の蔭に、首を吊って死んで居る人間の姿を幻視した。況んや、上野や浅草の梵鐘が力なく響き渡って、梟の鳴き声と共に夜の帷が降りると、人々は天空に横わる銀河にさえ一種の恐怖を感じ、さっと輝いてまた忽ち消える流星に胸を冷すのであった。なまぬるく静かに動く風の肌ざわりは、死に神の呼吸かと思われた。
けれども、さすがに近代人である。疫病が「猖獗」という文字で形容された時代ならば、当然「家々の戸はかたくさしこめられ、街頭には人影もなく」と書かるべきであるのに、その実、それとは正反対に、人々は身辺にせまる危険を冒して外出し、街は頗る雑沓した。夜になると外気の温度が幾分か下降し、蒸されるような家の中に居たたまらぬという理由もその一つであったが、主なる理由は近代人の絶望的な、宿命論的な心の発現であった。恐怖をにくみながら、恐怖に近づかずに居られないという心は近代人の特徴である。