Japanische Klassiker mit Furigana
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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Lesen Sie 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 173.309 Zeichen · 352 Bildschirme
わしの前身も、あの黒煙から道を踏み迷ったのだ。
非を悔いてから既に二十余年。わしが再びそんな魔道に落ちぬのも、養うて下さる御主人のお庇と常に思うていたら――その才謀学識の人いちばい優れている御主人が、地獄の火放けをなされようとは。いうも恐ろしい反逆の狂兵を駆り立てなさろうとは。
ぞっと、身慄いを覚えた時、わしは一瞬に世の中が厭になった。所詮、この世というものは、学識ある者も、教養のない者も、食える者も、食えない者も、一様に皆つづまるところ餓鬼の寄合いか。外道悪鬼の遊び場か。ふと、そんな気がして、死のうと思った。
わしは坐りこんで、脇差の柄に、手までかけた。
……すると。その時ふと。
わしの心が、死に向って、しいんと冷たく澄みきったせいか、ふしぎな憶い出が頭にのぼって来た。
二十余年前の――稲葉山の牢内に蠢いていた自分の姿だった。蜘蛛六だの何だのの影だった。またその中に交じっていた猿めいた顔をした針売りの小男だった。
あの時も、死を考えた。
あの牢も、今のこの山の頂のように、真っ暗だった。
そんな暗合が、ふと、遠い記憶をわしに呼び起させたのであろうか。