Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans

Aozora Bunko

「あなたが、お篠どのですか」

「はい」

「殿にも、よく御記憶でござった。会おうと仰せられますから、庭口へおまわりなさい」

と、自身で導いて行った。

お篠は、大事に抱えて来た風呂敷づつみを持って、平庭のむしろの上に坐っていた。――幼少から母に聞かされている平馬様とは――いや今は敦賀城の主となっている大谷刑部吉継様とは、どんな人であろうか? ――恟々と胸の縮まるうちにも想像してひかえていた。

暗くて、蚊のうなりだけが聞えている書院に、近習たちの微かな気配がうごき、やがて、燈火がぽっと点いた。

「――篠というか」

刑部の声であった。

が、お篠は口の裡で、はい、と答えただけで、その人を仰ぎ見ることなどはとてもできなかった。

「母は、達者か。……もう幾歳になるの、左様、わしでさえ本年三十八歳になるのじゃから、あの乳母もはや余程な年のはずよの」

それからも、いろいろと親しげに刑部から話しかけられたが、お篠は、思って来たこと何一つ云えないで、ただ早速、母から吩咐って来た包みを解き、中から重箱に入れた麦の打菓子と、関の観音の守護袋とを添えて、

「母も、大きゅうなった殿様のおすがたが見たいと、朝夕に云い暮しておりますが、中風を病んでからは、歩むこともかないませぬので、私が代りに参りました。