Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans

Aozora Bunko

しかしその疑いは、過去の彼と、現在の彼との、形や身分を較べるからで、素の人間だけとして考えてみれば、光秀様にしても、穴馬在の貧困時代に誰が今日あることを想像もしよう。

猿殿の御素姓や、幼名なども、あの折、おぼろに聞き覚えていたわしは、近ごろ、惑星視されている羽柴筑前守殿こそ、わしの知っているお方に紛れない――とやがて知って、懐かしや、一度は会うて沁々と、昔語りをなどと思ってみたが、先の地位も地位、こちらとの関係も関係、それと常に、戦陣から戦陣へ、席の温まる間もないお方――主人持ちのわしの身にも暇はないし――つい思いつつ幾年かを過ぎて来たわけだった。

けれど、今こそ、そんな小さな私事でなく、天下の大事を齎して、猿殿にお会いできる日に行き着いた。

いや、お会いする事を楽しんでは、それも私事になる。わしは悲壮な考えと、大乗的な決意とを固めて、丹波境から東した御主人とは反対に、西へさして、道を急いでいるのである。

微塵、この間に、私心をうごかしてはいない。神仏御照覧あれ。わしは御主人を裏切るのでもない、身一つの落着きを見つけに行くのでもない。ただ、平凡な人道を真っ直ぐに歩んで行こうとするだけだ。