Classiques japonais avec furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lisez 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 508 883 caractères · 1017 écrans
肺も心臓も、大馬籠の山々の下敷きになったように苦しかった。
――それでもまだ武蔵は、たった今、そこに振り捨てて来たお通の面影を、熱い血の中から忘れ去ることができなかった。
志賀寺の上人でさえ、同じ血を持っていた。法然の弟子親鸞も、同じ煩みを持っていた。古来、事を成す人間ほど、生きる力の強い人間ほど、同時に、この生れながら負って来る苦しみも強くそして大きい。
弱冠十七歳の村童に、槍一本かつがせて、関ヶ原の風雲へ駆け向かわせたのも、この血の熱である。沢庵の鉄槌に感じ、法情の慈悲に泣いて、翻然と人生に薄眼を開いて志を起したのも、この血の力である。孤剣、柳生城の伝統を攀じのぼって、石舟斎に迫ろうとしたあの気概もこの血――また、下り松に行って眼にあまる敵の白刃林を駈けちらしたのもこの血があればこそであった。
だが、その烈しいものが、お通という許された対象を通して、人間の本能に燃えつくと、彼が本来の野性は、ここ数年の間に、やっと少しばかり養い得たところの、修行や理性の力では、到底、制しきれないほど強いものとなって、狂い出し、乱れ出したのである。
この敵に向っては、さしもの剣も、何の用もなさないのだ。