Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans

Aozora Bunko

権十は、午から陸へあがって行ったが、間もなく、酒を買って帰って来た。

そして磋磯之介に、

「旦那様、もうこの辺はだいぶ往来が楽になったようでございますよ」と、告げた。

その晩、磋磯之介は、ここから常陸岸の玉造へ上陸る決心をしていたので、

「そうか、それは有難い」

と、心からいった。

晩になると、薄暗い魚燈の下で、父娘は酒の支度をしてくれた。小やかな宴ではあるが別れの名残だった。権十が酒の相手をし、お松は、洗濯した袴の綻びを縫っていた。磋磯之介は涙がこぼれてたまらなかった。

漂泊の支那の詩人が歌った詩を思い出したりして、彼は、感傷的な思いに沈んでいた。

「海後さん、おら、お針は下手だから、よう縫えていねえがよ」

お松は、糸切歯に糸を噛んで、縫いおえた袴を出した。

身支度をして、厚く礼をいって、さて、岸へ上陸ろうとすると、あどけなくそれまで笑っていたお松が、急に、眼にうるみを持って、

「さようなら」

といったきり、暗い苫の下にかくれてしまった。

磋磯之介は、足を戻して、

「――お松っちゃん」

と呼んだ。

返辞をしてくれないので、彼は権十のそばへ戻って、

「金子は持ち合せていないし、何も礼につかわす物がないが……これはわしの刀に付けておる目貫で、鉄地に花菖蒲の象嵌彫、作銘もないが、持ち馴れた品じゃ、かたみに上げるから納め