Classiques japonais avec furigana
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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans
さみだれ陣
一
一
二十余年のあいだ、わしは闇の中で別れた猿殿の事を、一日たりと、忘れた事はない。
だが、主人持ちの身には、私の暇は一日もなかった。御主人が貧困時代は貧困に追われて。御主人が出世なされば、わしの勤めも共に重くなって。
が、心ひそかに、猿殿との再会は心がけていたので、その後、猿殿が何人であるか、どう暮しているかは、会わなくとも、よく知っていた。
――あの成り上がり者が。根は、中村の土百姓、足軽の果て木下弥右衛門の子ではないか。
――それが今では、羽柴筑前守の、秀吉のと。長浜の城主から、また、姫路城へおさまって。とか。
――運の強い猿ではある。いかに才長けた、戦上手の男とはいえ。とか。
――ちと、君寵も過ぎよう。というと、あいつに逆らった者、なぜか、みな亡びておる。何しても、うるさい猿面。とか。
こうした類の噂は、近ごろ、いや数年も前から、年ごとによく聞くことで、光秀様におかれても何かにつけて、
(猿めが)
と、いう事は、よく口に出されたのを、わしも側で聞いていた。
だが最初のほどは、よもや近ごろ隠れもない織田家の御幕下の猿面殿が遠い以前、稲葉山の牢で、わしの見知っているあの猿殿と一つ人間であろうなどとは――どうしても考えられなかった。