Classiques japonais avec furigana
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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans
眼のふちに、うす黒い肉が、たるんでいた。馬の上でも、彼は、一言もものをいわなかった。
「やっ、修蔵様がっ」
若党が、口走った。
札の辻の往来から、修蔵の影が、路地へ走りこんだのを、伝右衛門は見て見ぬふりをして通った。もう、とうに江戸にはいないはずの彼だったが、草鞋などもつけず、いつもの身装で、まだ何処かに身を寄せている様子だった。
――帰ったら、糺明してやろう。お磯がよくない。どこかに置いて、も一度、詫びをさせて家に入れるつもりだろう。
漠とした彼の頭には、それすら、それ以上には考えられなかった。ただ、ゆうべの隆達ぶしの声、踊りの毛脛。そして、涙をこぼして笑ったことなどが、錯然と、頭にあった。
すると、ふいだった。走って来た女だった。
悲鳴のような声で、いきなり、
「殿様っ……。殿様っ……。お慈悲でござりますっ」
もつれて、何をいうのか、咄嗟だし、馬が蹄を狂わせたので、聞きとれなかった。ただ、伝右衛門には、自分の鐙へ、ひしと、しがみついている黒髪と、白い顔と、そして、もう眼の中にまで沁みこんでいる濃い江戸紫の布が、解けて、肩から胸に垂れている凄まじい女の姿を、はっと見た。