Classiques japonais avec furigana
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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans
夏が近い――
烏山の町の者や、桑摘みの人々の間では、よくそんな噂が出た。
社家の前には、あれからずっと、見張が付いていたが、六月に入ると、その見張もいなくなった。
主の粂之介は、きょうも山へ登って行った。
今日は、瓢を提げ、大きな弁当を腰に結いつけていた。
檜沢を通ると、沢で材木を挽いていた木挽たちが、
「ほら、また、通るぜ」と、囁いて笑った。
「えいッ――」
と、粂之介は持っている杖で梢を払っていた。そして、沢を覗いて、
「者ども! 者ども! そこへ今、天狗が落ちて行ったぞっ。わしが斬り落したのだ、帰りに持ってゆくから、縛って置け」
と、呶鳴った。
「あはははは」
と、沢の木挽たちは、腹をかかえて、おかしがった。
剣ハ雲根ヲ断ッテ
殺気横タウ
鉄花渋シテ
蘇花生ズ――
もう詩吟の声は、峰の上だった。
炭焼や、木樵や、見知らぬ者に会っても、粂之介はすぐお道化た。山中なので、怖がってみんな逃げ出してしまう。
「やおれ、待てっ」
と、追われて胆を縮めた者もあった。
大谷原の辺は、滅多に人も通らなかった。昼間の月が、草の花の上にぼんやり見えた。
「美味い」
瓢の酒を立ち飲みしながら、彼は、黄昏れるのも忘れたように、山の奥へ奥へと彷徨っていた。