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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

「わしは、田を持ってるさ。人間なら誰でも持っている慈悲の田だよ、善心の田だよ。わしは、日本中にまたがる大地主じゃから、あちこち、諸国のその田から、一穂ふた穂と、いただき集めてくるんだよ。――今にな、みんなも、自分自分の田から穂を咲かせて、何年後でもよいが、わしにお分け穂を与えてくれよ。いいかい」

ゆうべのような大団欒が始まった。

あくる日は、芝の神明。次の日は、本所のどこと、毎日つづいた。市十郎は、同苦のそばを離れなかった。――いや、離れたらすぐ絶壁から谷底へ、ふたたび、一気に落ちてゆきそうな気がして、大釜と荷車に、しがみついている姿だった。

七草までという――その終りの正月七日だった。

その日の場所は、下谷の広徳寺前で、ここは歓楽街の吉原裏に近いのに、なぜか窮民の混雑は、ほかよりひどい。

その尽きない飢えの行列も、やっと残り少なになった頃である。――杖に身をささえ、跛足をひいた一人の若僧が、網代笠に面をつつみ、施粥の列に交じっていたが、やがて自分の順番になると、鉄鉢を出して、僧侶らしく、ていねいに頭を下げた。

市十郎は、大釜の粥を、柄杓で汲んでやっていたが、