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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

鋸

止めはせん……わしとて、止めはせん、はやく行け」

「では、心急きます故」

義平太は、立って、ふすまから廊下へ出た。そして、そこに佇んで、心を打たれていた友の小林勘蔵と、はっと顔をあわせ、おたがいの熱涙を、睫毛に相見て、濡れた手をかたく、にぎり合った。

鋸

――ふと、気がついてみると、自分は、荒縄で鞠のように縛られている。

陰湿なにおいにみち、あたりは、まッ暗だ。

どこかの床下にちがいない。

左右太は、何を考えるよりも先に、無意識に、すぐ立ちかけた。けれど当然、床板の裏か何かに、ゴツンと、頭をぶつけて、また腰をついてしまった。

「……あっ」と、眼まいをおぼえて、左右太はふたたび、気が遠くなりかけた。だが、そのときすぐ、かれの頭の上で、人声が聞えたのである。

「おや。へんな物音がしたぜ。ごとん――と」

「なあに、野郎が、正気づいて、もがき出したのにちげえねえ」

「そうか。うっかり、忘れていたが、逃げやしめえな」

「大丈夫、がんじ絡めに、土台柱へ、くくり付けてある」

室内の声は、三、四人らしく聞える。――左右太にはみな聞き覚えのない声ばかりだ。

「どこだろう? ……ここは」