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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
燈下の一品
――いや、ちがう! てめえは、大岡市十郎だ。於市だっ……」
「亀次郎。いかがいたした。体は、よいのか」
「な、な、なにを、いッてやがるんだ。笑わかすな、この偽者め」
「苦悶しておると聞き、薬を持って来た。服むか」
「服んでやる。さあ、服ませろ。おれは、きのうから、体じゅうが、炎のように燃えている。おぼえておけよ。これはみんな、てめえの恨みだぞ」
「――牢番。これを服ましてやってみい。神功丸だ。熱にもよい」
越前が、印籠を手渡すと、亀次郎は、羅刹のようになって怒った。
「ばかにするなっ。おれを、毒殺しようなどと思っても、その手は食わねえ。やいっ、市十郎、ここへ来い、牢の中へはいって来い。いい分がある」
「いずれ、白洲で聞こう。白洲で、存分に申せ」
「いやがったな。やいっ、おれを白洲で、貴様が、調べられるのか。ちゃんちゃら可笑しい! わははは……。おれに、旧悪があるならば、貴様にも、旧悪があるぞ。いってやろうか。イヤ、いわずにおくものかよっ。――さあ、今からでも、白洲へ曳けいッ。牢番、開けろッ、ここを」
「その気がしずまらぬうちは、吟味もなるまい。白洲に出たくば、早く、落ちつくがいい」