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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

二つの飛報

「人に頼んでは、もしやのことが心配になるし、自分が、奉行所の中へ行くわけにはゆかないし……」

と、例の、左右太から頼まれて来た連絡の手紙を、帯のあいだに持って、気が気ではない容子だった。

店の石焼豆腐は、与力部屋や同心部屋へも、折々、出前に入るので、もし註文があったら、自分が、岡持をさげて――などと考えていたが、午もすぎたせいか、店には客がいッぱいだが、役宅からは、お誂えもない。

すると、たそがれ近く――

「お次さん。いるか」

偶然、小林勘蔵が、四、五日前に、かの女の手からよそへ頼んでくれた袷の仕立代を払いに、顔を見せた。

「まあ、そんなもの、よろしいんですのに」

「いや、取ってもらわないと、これから吾儘が頼めないから」

「そうですか。じゃあ、いただいておきますが、家のお店も、奉行所に御用のあるお客さま達のために、こう繁昌しているのですから、せめて、何なりと、御不自由な御用は、遠慮なく、仰っしゃってくださいまし」

そこには、人がいたので、お次は、庭向きの小座敷の方へ、茶を運んで、

「どうぞ、こちらで一ぷく遊ばして」

と、敷きものを、すすめた。

勘蔵も、実は、人なき所で、お次の口から、以後の左右太の動静を知りたくて来たらしく、すすめられるまま、腰かけて、