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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

泣き笑い

「拙者にも、てんで見当がつかぬ。まるで、人を愚弄しに出て来たような奴」

「狐かな」

「まさか」

「ともあれ、お奉行が、お待ちにちがいない。楽翁どのの行方が知れず、その駕籠には、別人が乗っていたとあっては、また考えものだ。ありのままを、お答えするとして、一たん御復命しておくがよかろう」

「いやっ、おれは」

と、義平太が、もがいて、友の腕から脱けようとするのを、二人は、しっかと抑えて、

「おいっ、どこへ行く。どうする気だ」

「もいちど、今の駕籠を、追ってみる」

「よせッ。ムダだ」

「でなければ――牛込柳町の」

「自分の家へ、自分で捕物に乗りこむ気か。いい加減に、友達に世話を焼かすなよ」

その言葉には、義平太も、いッぺんに顔じゅうを涙にしてしまった。

「泣くな。見ッともない」

左右太が、背をたたくと、義平太はなお、咽びあげて、子どもみたいに泣き出した。

左右太も顔をそむけてしまい、勘蔵も肱を両眼へあててしまった。三人は腕を組んだまま泣き泣き歩いた。

黒い奉行所の裏門が、地を見ない三人の前へ、打つかりそうに近くなっていた。皆、はっと、自分に返った。いや、この門から社会にむかって吏事としての職誓をもつ、奉行与力たるわれに返った。