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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

ひとつの流れ

階下の口喧嘩は、なかなかおさまらない。

化物刑部が叩き出した青二才を、てめえはここへ咥えこんだろう。たしかに見たという者がある。――三平の声で、そんな言葉も聞えて来た。

また。――よし、てめえがそういう量見なら、てめえの本当の渡世は、女掏摸だということを、その筋へ吹ッこんでやるからそう思え。この家にも、この町内にも、いられねえようにして見せるぞ。――と、そんな凄い脅迫文句も、二階までひびいて来た。

(甘くお見でない。女掏摸がどうしたッていうのさ。そんな脅しに驚くようなお島じゃないとさ。わたしがお白洲へ坐る日には、赤螺三平こそ、ひと足先に、獄門台へお出かけのはずだよ。それを承知なら、何でもやってごらん)

これはお島の方のたんかである。

この手の脅しが効かないとおもうと、三平は、こんどは、方向を変えて、

(二階にいるだろう。おれに会わせろ)

(会わせたら、どうする気さ)

(女を奪られて、黙っていられるか。男と男の勝負をつけてみせる)

(ばかなことをおいいでない)

(いや、赤螺三平の男がたたねえ。銀歯組の名折れにもなる。野郎を出せ)

そのうちに、どたどたという物音がひびき、すぐ梯子だんの下から、赤螺三平が、二階へ向って、吠え出した。