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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

抜け裏の美少年

市十郎の眼へ、つきつけるように、お燕の顔を見せた。

市十郎は、腕ぐみを解いた。そして素直に、自分の背なかを向けていった。

「わしの子だ。わしが負う。……久助、こっちへ背負わせてくれ」

抜け裏の美少年

十一月にはいった。寒さは心へもくいついてくる。

木賃を泊りあるいているうち、ふところの金もなくなってきた。味噌久は、冬空を仰いで、しょんぼり、嘆くようにいった。

「ねえ市の字。どこかで、何かやらなきゃだめだよ。泥棒はできねえの、たかりはいけねえのと、臆病なことばかりいッてたんじゃ、この子が、凍え死んでしまうぜ」

お燕を、交る交るに負って、きょうもあてなく、盛り場の裏町をうつろに歩いている二人だった。

寒さと、空き腹は、悪への盲目を駆り立てるが、大亀や阿能十のような先輩がいなくては、味噌久も、掻ッ攫い一つできない男なのである。まして、市十郎には、その方面の才覚はない。

いや、市十郎は、こうして毎日、泣く子を負って、町をうらぶれ歩くのも、今では何か、楽しみになりかけていた。――お袖、お袖、お袖はどこに。心は、常にそぞろだった。かの女の行方をさがすための、恋の苦労と思うと、飢寒も、ものの数ではない。