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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「おたつ、まだかい。夜半すぎると、どうも、何か腹へ入れねえと、冷えてならねえ。早くしてくんな」
番太郎の庄七は、番小屋の土間で股火をしながら、台所の物音へ、うどんの催促をしていた。
おたつは、七輪の土鍋をおろしながら、ふり向いた。
「おや、警板が鳴ってるよ。おまえさん、外の高張提灯が消えてるじゃないか。また、町方に大叱言をお食いでないよ」
「ほい。気がつかなかった」
庄七は、それへ蝋燭をつぎ足して、もどるとすぐ、熱いうどん鍋へ、箸を取って、ふウふウいっていた。
その時、ガラッと、油障子があいて、
「庄七、木戸触れだぞ」
と、目明しの安が顔を見せた。
「えっ、木戸触れですッて。また何かあったんですかえ」
庄七は、箸をすてて、すぐ外へ出、番屋と並んでいる木戸の小門を閉め切った。
江戸の警備には、江戸三十六門と俗にいう見附や城門のほか、市中の要所要所にも、こうした木戸があって、暮れ六ツから明け六ツまでの間は、大門が閉められ、夜中の通行は、せまい小門に限られていた。
そして何か市中に事件が起ると、警板が鳴り、木戸締めのふれが廻って、ただちに、ここが非常線となった。