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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

と、小舟の上で、しゃべりながら、どんと舳を寄せて来たのは、これも今では、四十男の分別ざかりとなりながら、今もって、いや愈もって、自分を悪党の一人前に仕立てすました阿能十こと、阿能十蔵であった。

「あら、だめよ。もっと、舟のゆれないように、抑えていてくれなくッちゃ」

お燕は、岸から覗いて、ためらった。――すると、まだ苫の下に潜りこんでいた他の浪人者二人が、げらげら笑って、

「黒衣を着こめば、おれ達悪党も、三舎を避けるお燕ちゃんだが、女に返ると、やっぱり女だから妙なものだ。お燕ちゃん、下手に跳ぶと、お小姓袴の下から、水神様が拝めるぞ」

「いやだあ」

お燕は、侠な声を出して、母の肩につかまり、一緒になって笑いこけた。

しかし、刻々に、空は白み、朝は賑わい立ってくる。

小舟は程なく彼女たちを苫の下にかくして、矢のように、三叉の洲から、大川へ漕ぎ出て行った。

櫓を把っている阿能十のほか、苫の下に、なお二人の男がいた。大亀と、赤螺三平だ。

いうまでもなく、堀留の山善へはいった五人組は、この顔ぶれだ。往来の不良児や御家人ごろの単なる放埒者の群れは、当然な麻痺や自暴自棄をかさねて、今や純然たる強賊化していた。