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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

偽せ君子の皮を剥いでやろう。男の罪を、あべこべに裁いてやらずにおくものか)

かの女は、たった一つの生きがいを、ここに見つけ、そして、

(そしたら、どんなに胸がせいせいとするだろう。そのあとなら、死んでもいい)

と、かたく思った。

ゆうべの五人組へ交じって、あぶない薄氷を踏んで来たのには、べつに理由もあったが、かの女が、男にたいする返答の一つでもあったことは間違いない。

「――ええ、いらっしゃいまし。これはこれは御寮人さままで、御一しょで。きのう、お報らせをいただいておりましたので、お座敷を取ってございまする。さあ、どうぞ」

舟は、せまい山谷堀へはいっていた。

吉原帰りの朝の客がよく立ち寄る堀の茶漬屋では、そこの内儀さんが、すぐ桟橋へ姿を見せて、迎えあげた。

朝風呂にはいって、軽いもので、朝飯をたべて、舟はそこへ預け、町駕籠を雇って、お袖とお燕は、先に帰った。

駕籠は、下谷から根岸の里へ。――根岸もずっと淋しい寛永寺裏の一軒の小屋敷、まず、上野の寺侍の住みそうな門のまえで降ろされた。

近くには、同じ寺侍のやしきが多い。お袖はここの御寮人さまである。お燕は、お嬢様とよばれながら、折々、男装したりして出るが、近所の者は、怪しみもしなかった。