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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

それを知っているのは、貴公と小林勘蔵と、あわせてこう三人きりだ。……すべての同僚下僚から、蔑みと、冷めたい眼で見送られて、御門を出るときは、いい気持はしなかった」

「だが、それも皆、おれ達三名が、親とも、御主君とも思って、御助力申しあげている越前守様の大難に当るのだとおもえば。……なあ、左右太、何でもあるまい」

「うム。何でもない」

ふたりは、夜の川面に、眼を落しながら、しばらく、沈黙しあっていた。

義平太は、町医師の市川楽翁の子。

左右太は、もと上総の農家のせがれだったが、越前守に、ふとみとめられて、奉行所の端役から、抜擢された者だった。

前々から、与力として、立派に資格をもっていたのは、もう一名の同僚、小林勘蔵だけである。

勘蔵は、前の江戸町奉行、松野壱岐守の部下だったのを、大岡越前守が就任のとき、たって壱岐守に請うて、越前守が、自分の与力の中へ、もらいうけたものだった。

他にも、与力同心は、ずいぶん多いが、とまれ、越前守を中心に、世上の悪評のあらしにもたちむかい、

(この人のために尽すことは、即、世のために報ずることだ)

と、信念して、かたく結びあっている三人なのである。