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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「お次ではどうだ。なお、まずいか」
「貴公まで、からかってはいけない。わざと、ここ数日は、入り浸ッて見せたが、石焼豆腐のむすめになど、心まで許しているわけじゃない」
「……おや?」と、そのとき、義平太は、あたりの河柳を見まわして、
「たれか、泣いたような声がしたとおもうが、おれの耳のせいか」
と、耳をすまし、そして、ふいに、うしろの樹蔭へ立って行った。
「あ。お次さんだ……左右太、お次さんが、こんな所で、いまの貴様のことばを、立ち聞きしていたのだ」
「いつのまに?」
と、左右太は、当惑そうな顔をした。だが、かの女へ頼んでおいた紙片に、ここの場所を書いておいたことをおもえば、お次が、それを読んでいて、義平太のあとから、そっと来ていたことも、娘心として、そう驚くほどなことでもない。
いや、義平太は、むしろそれを友のためにも、これからのある策の上からも、好都合だとよろこんだ。
「お次さんの気性もわかっている。あれを、打ちあけてやってもいいだろう」
義平太はいったが、左右太は、さあ? と、考えこんで、
「女は、口がかるいからなあ」
と、難色をみせた。
お次は、信じられない自分を、恥じるように、ただ泣いていた。