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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

市十郎の恋

そのせいか、町はどこの番所も、犬目付や町奉行の手が総出で、往来を睨んでいるし、川口はどこの川筋も、夜明けまで、船止めだといっている。――あっしも、足元の明るいうちに、堺町の盛り場へ行き、楽屋者の中へまぎれこんでいますから、もし二人がここへ来たら、そういっといておくんなさい」

「アア、いいよ。……だが、そんなに手配が廻っては、あの人たちも当分、ここへは寄りつけまい」

「梅賀さんにも、耳打ちしておいておくんなさい。じゃあ、そのうちまた」

いちど飛び出したが、味噌久は、また、あたふた戻って来て、

「お袖さんお袖さん。なんだか町調べの役人や手先が、こん夜は、川筋の軒並みを洗ってあるいているそうだ。気をつけねえといけないぜ」

早口に注意して、どこともなく、宵闇のうちへ掻き消えた。

市十郎の恋

導引の梅賀は、湯から上がった体を拭き、浴衣、渋団扇のすがたになって、

「お袖、阿能と大亀が、とうとう馬鹿を、やったらしいな」

「いまのを、聞いていたんですか」

「なあに、客先の茶屋で療治をしているうちにもう、噂は聞いていたのよ」

「捕まったら、獄門でしょうね」

「油煎りになるかもしれねえ。