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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「御念には及びません。先生が生涯かけてのお頼みというんで、若い奴らも、欲得なしに、一肌脱いでいる意気ですからね」
その間に、お燕は駕籠へ移され、かご寅もそれに尾いて、先に急いで行ってしまった。
「義平太」
「はっ……」
「何をぼんやり見送っておるのだ」
「父上。いったい、あなたはお燕の身を、どこへ差立てられたのです」
「まあよい。わしにまかせておけ。――悪いようにはせん」
「ですが、てまえも、十手を帯びている身です。このままには」
「たれが、そちの十手を辱しめたか。わしは大処から考えてしておること。そちは、職分のてまえ、眼前の苦情をいうとるのじゃ。しかし将来になってみれば、そちの誠意も、わしの苦慮も、同じだったことが分ろう」
いいながら、楽翁もすぐ駕籠のうちへ、身をかくした。そして、駕籠の中から、赤坂へやれ、といったような声を、義平太は耳にした。
裏菊の門
「赤坂へ?」――義平太は小首をかしげ「はてな? ……」と、いよいよいぶかった。越前守のやしきへ父が急いだとすれば、なおさらわからないことになる。
けれど、義平太は、父を信じる。単なる子としてでなく、正しい人間としての楽翁を信じる。