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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

暮れるにつれて、四辺のひそまるのと、夕闇の濃くなるままに、前よりも、鬼気をまして、この一室を脅かした。

「越前っ。やあいっ、偽せもの、くそ奉行っ。なぜおれに、姿を見せねえのだ。なぜ、大岡亀次郎を、吟味しねえかっ。うぬっ、ここへ来い」

とぎれとぎれ、喉もやぶれそうな彼方の声だが、聞いているここの者たちの耳も、ついに、よそにしているに耐えなくなった。

「お奉行。ちょっと、行って見てまいります」

勘蔵、義平太が、立ちかけると、

「ま。すてておけ」

越前は、馴れたという顔つきである。

「けれど、牢番どもが、いつも閉口いたしております。少々、なだめておかないと、今夜また、寝ずに、狂うやも知れません」

「そうだの、体にこたえよう。……が参っても、逆らうなよ」

「決して。その辺は」

ふたりは、立って行った。

そのあとで、山本左右太は、思いきったように、膝をすすめた。

「最前からの、御報告のうち、一つ申し残しがございまする」

「お袖、お燕のふたりの行方であろう」

「お明察のとおりです」

「同僚のふたりにたいして、そちは、明らかに申すのを、憚っておったが」

「よいか……わるいかと……」