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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

――けれど、この藪田助八の申し入れは、宮御自身といえど、むげに拒めぬことになっておる」

「藪田様。……どうぞ、おっ母さんに、会わせて下さいませ」

「会いたいか」

「会いたくて会いたくて。夢に見るほど、会いとうございます」

「よし、会わせてやる。……だがお燕、いや采女。会いたいのは、母だけか」

「いいえ」と、采女は、ありのままな、女になって、しゅくしゅく啜り泣いた。

「――まだ見ぬ父親には、もそッと会いたいことであろうが」

「どうぞ、お慈悲に……、そのお父さまにも、会えるように、おはからい下さいませ。そして父と母とが、私の眼のまえで、ただ一度でも……手を握りあって……そして、私の口から、お父さん、おっ母さんと呼ばせてくれたら、私はすぐ死んでもよいと思います。ああ自分も、双親を持った人の子ぞ……と思って、どんなに嬉しかろうと思います」

「望みは、キッとかなえてやる。しかし、柳町の隠れ家でも、何度もいいきかせておいた通り、それにはそち自身がまず、楽翁どのへ誓ったように、堅い堅い決意をもって、その時を、待たねばなるまい。いや、自らその幸福を、剋ちとるほどな覚悟をもってかからねば、むずかしいぞ」