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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

「さ、出ておいで、出ておいでよ。そして、さッさと、南へ自訴して行くがいいじゃないか」

物音を聞いて、奥の内緒から、男の足音が、あらあらと、近づいて来た。

そして、お袖と共に、お島を外へ引きずり出そうとする時、それまで物静かに杯をなめていた藪八は、つと立って、

「ちょっと、そなたに会わせたい者がある。こっちへ顔をかしてくれい」

お袖の手を横から捉えて、自分の部屋へ連れて来てしまった。

「あっ……おまえは?」

お袖は、お燕の姿を見ると、本能的に走り寄った。だがお燕は、藪八の顔ばかり見ていた。かれの許しのないうちは、何もいってはならないと、ここへ来る前の約束をかたく守って――。

「お燕! どうしておまえは、ものをいわないの。お燕! わたしだよ。おっ母さんですよ。そんな取り澄ました顔をしてさ。一体、どうしたわけなんだえ。……そして、そこにいる人は?」

と、かの女は、わが子の膝を揺すぶッた。そしてふと、後ろを振り顧ると、そこにいた藪八と、あとから入って来た大内不伝とが、どっちも無言のまま立ちはだかって、じっと、睨み合っていた。

「貴公が、寺侍の大内不伝か」

藪八が、とたんに、口を切った。