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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「貴老におまかせ申しておく」
「ぜひもない……」と、楽翁も匙を投げた。
「――が、あなたはお奉行、愚老は医者。どちらも、天職のため、仆れるまでは、最善の任を尽し合いましょう。やれ、お忙しいところを長座いたした。御免」
と、楽翁は、いつになく、あっさり引き退がって、ほかの役部屋をあるき、小林勘蔵や山本左右太などと、何事かひそひそ話しこんで立帰った。
それと前後して、鉄淵禅師も、
「今夕は、老中の土屋相模どのと、会う約束があるので」
と、飄然と帰って行った。
一日措いて、次の日、越前守はふたたびお袖の白洲を命じた。
そして今度は、これまで一回の下吟味しかしていない大亀こと――大岡亀次郎、赤螺三平、阿能十蔵なども、次々に白洲へ呼び出し、いよいよ本裁判にかかるであろうと、奉行の名をもって言明した。
瓦版
その朝。――石焼豆腐のお次と、山本左右太は、まだ朝霧のふかい裏河岸に、人目を忍んで会っていた。
「お次さん。きのうわしがいった事。そなたの母親に、訊ねてみたか」
「え。訊いてみました。やはりあなたの仰っしゃったように、お島姉さんは、実の子ではなく、日本ばし裏にいた時分、死んだ父が御懇意にしていたお武家様が夫婦とも亡くなったので、身寄りなしの子を引取って、養育して来たんだそうです」