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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

越前が尊ぶのは、やはりそこです。法とは、すでに、いささかの“私”なきことです。たとえ、その大法を初めに、制定された御宗家であろうと、天下諸民を、律する法として生きた以上、もはや、将軍家の御意志でも、ゆめ、左右されるものでもなく、また、お口出しすべきものでもない。――その、絶対なる尊厳を、上みずから冒すとすれば、上も、法の賊です。世を紊し、秩序をやぶり、ひいては、将軍家みずから将軍家を破るものです」

「……これは、手がつけられん」

大和守は、うしろを振向いて、北町奉行の中山出雲守と、にが笑いを見あわせた。

出雲守も、何か一言、いわなければならない義理を、感じたように、

「まあ、越前どの。そう理屈一図に、仰っしゃるものではない。貴公は、年久しく、伊勢山田のような、暢ンびりした田舎においでられたから、江戸、柳営などの、事情に精通されないのもご尤もじゃが、政治にも、裏と表があり、法の適用にも、そこは、手加減、酌量などがあって、行われているものだ。

――元々、東洋の法は、仁を本とし、苛烈な罰が目あてではござらぬ。なお、朱子の語にもある。

――聖人ノ治ハ、徳ヲ以テ、民ヲ化スヲ本トナス。