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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
刑ハ、以テソノ及バザル所ヲ、補クルノミ……
と。まあ、そんなものではござるまいか。越前どの、そうこちこちに、法をたてに把って、御自身まで、法縛りにならんことじゃな」
と、世俗的に笑った。――うなずく顔が多かった。――常識の肯定として。
しかし越前は、答えもしない。黙殺した。
そのとき、牧野因幡守は、鉄淵のそばへすり寄って、何か、小声で話していた。
鉄淵は、先師の遺した大蔵経開版のため、幕府へ嘆願のことがあって、しばしば寺社奉行の因幡守の私邸をも訪れ、因幡守も、かれに帰依していた関係から、自然、越前守のうわさも出、前々から、ふたりは、その問題について、心配し合っていた間であった。
小声なので、因幡守が、何をいったのか、聞えなかったが、鉄淵の返辞は、あたりに遠慮もない大声だった。
「はははは。知らんよ。わしには、政治だの法律だの、そんなことは、分らぬ。わけも分らぬ坊主が、越前どのに、何をいえよう。越前どののやりたいように、やらせて見るわけにはいかんのかなあ。……わしは、見物のつもりで来ておるんじゃが。アハハハ」
むずかしい空気になった。人々の眼は、越前守の態度を、あきらかな我意強情と見、