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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

かれが、痛心を深めたのは、越前の為というよりは、彼自身のためでもあった。

いまかれの口から、将軍家こそ罪悪の元兇であるといわれたとき、吉宗は、一とき、嚇としたが、とたんにまた、この日頃、聞きたいと思っていた言葉をいきなり聞かされたような心地もした。――じいんと、鼓膜から頭へかけて、応えたものを瞼にささえて、しばらく、眼をとじているうちに、彼の心は、

(そうだ。その通りである!)

と、叫んでいるのが自分でもはっきり分った。自分とはべつな声を以てである。

だが、吉宗は、間もなく、その声を、自分のものと、はっきり認めた。さすがに、彼はこの時もう、越前守の意中を、充分に見てとった。

伊勢の山田奉行であった時から、すでに二、三の事件で、御三家たる紀州家を相手どって、地方民のため、頑として、法を曲げなかった剛毅なる彼を――まざと、今、目の前に見たからである。

「奉行。よくこそ、そこを問うてくれた。おん身ならでは、幾世にもわたる罪悪の府、将軍家の科を、裁き得る者はない。――吉宗を裁け、吉宗は、白洲に坐した気もちで聞くであろう」

彼は、率直に、座を退がった。

越前守も、下に坐った。