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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
まさに、人間界にとって、幕府とは、人間苦、人間悪を、限りなく作り出してゆく罪業の根源地――罪の府というも過言ではない。
あわれなのは、こんな世代に、宿命づけられた、かよわい女、無智なる人の子、また、やりばない若さをもった鬱血児たちではあるまいか。毒茸のあとには毒茸しか生らない。
こう観じて来れば。
かつての、中野お犬小屋荒しのような稚戯は、当然、無罪となさねばならぬ。
お袖、お燕にも、罪ありとすれば、より以上、大なる罪を、彼女たちの父に加えた、悪政の罪は、これをたれに科してよいか。
大岡亀次郎の父、五郎左衛門の死もまた、同様なる原因による。もし、かれの父が、悪政腐吏の間になかったら、亀次郎も、生涯を過らなかったかもわからない。同様なことは、阿能十蔵にもいえる。その他の者にも、酌量の余地がある。
何で、これらの者を、一越前守が、裁ききれよう。まして、越前自身も、凡愚、放埒な前身もあった身として。
これが、越前の嗟嘆だった。職悩職苦だった。そしてその遂行に行きづまったとき、法の権化ともならん――と誓ったとき、不可抗力な壁を見た。将軍家という存在である。