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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
骨肉
子どもなんざ、ままになれだが、ああまで情の深い女はめずらしい。不憫とも、可憐しいとも、いいようのねえやつサ。お袖が、うんというならば、おれがおめえになり代ってやりてえくらいなもんだ。……ええ、おい。何とかいえやい」
焦れッたそうに、またコツコツと、啄木鳥のような音をさせ、
「あと、十日も経てば、お犬小屋の一件の詮議も、きっと緩むにちげえねえと、おれには考えられる筋があるんだが、もう、ここにはあと一日といられまい。おめえも、元の古巣へ一緒に帰れよ。あそこの巣には、お袖もいるぜ、梅賀もいるぜ、阿能十もやがてどこからか現われて来るだろう。もとの仲間と、またおもしろく、仕たいことをして、遊ぼうじゃねえか」
「しッ……しっ」
市十郎は、うしろ向きのまま、机の下で手を振った。
「おるか」
男の声だ。ふすまの音あらく、入って来たのは、忠右衛門とおもいのほか、市十郎にとっては、その養父より恐い実家の兄の大岡主殿だった。
骨肉
坐るか坐らぬ、うちにである。
主殿はやにわに、机の上の書物をひッ奪くッて、
「えい、おのれが。なんの為に、こんなものを読みおって」
と、障子へ向って、抛り捨てた。