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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「世間へ分ったら、大岡十家は、また三年前の閉門蟄居のやり直しだ。いや、こんだあそんなお沙汰じゃすむまい。おれにつながる身寄りの奴らは、三軒や四ん軒はぶッ潰れるぞ。わははは」
「身寄りの? ……。と申すそちは」
「知りたいか。知って、腰をぬかすなよ。同族五郎左衛門のせがれ、亀次郎だ」
「げえッ。か、かめ次郎じゃと」
「聞かない方がよかったろう。だが、なにもヘボ親類へあだしたり、同族どもの細扶持を喰って歩こうなんて肚ではねえから安心してもらいたい。ちょッと、悪戯をやったお犬小屋一件が祟ッて、ここ百日は足もとが危ねえので、実あ、市の字の部屋を隠れ家に、十日ほど、戸棚住居を辛抱していたまでのことなんだ」
かれは、市十郎の腕を、いよいよ強く脇の下へ抱きこんで、
「なあ、市の字」
と、すぐ側の顔を見た。
市十郎の手は、無意識に、またも自分の腰の刀をさぐりかけていた。雨は、彼ひとりを、無残に打ちたたくように降った。
「いけねえよ、いけねえよ。死のうなんて、ケチな量見。このおれを、見るがいいや」
傲然と、かれの生命は市十郎の生命を誘った。――本来ならば、共に、ないにひとしい日蔭のいのちを。