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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
好色法皇
いまは、あの姫までが、まるで叔父叔母をわすれている。養家の恩にそむいてまで、あんな宿借り女の偽態の愛に騙かされてしまうものであろうか。――家成は情なくもなるし、腹が立ってならなかった。が、ぜひなく、ふだんの古車に乗って、かれは、楽しまぬ顔を簾にかくし、平門から出て行った。やがて、遠いほこりの下に、加茂の群衆が望まれてきた。青葉若葉の木がくれに、紅白の幟だの、唐錦の旛だの、榊葉をくくりつけた馬出しの竿だの、人間で埋められた入口も見えはじめた。家成の古車は、そのときもう無数の他の牛車に押しもまれていた。なんというおびただしいくるまの数であろう。檳榔車もある。糸毛車もある。こんなにも、都には、くるまの数があるものか、と驚かれるばかりである。家成は、ふと、舌打ちならして、ひとり心の底で心のかぎり、罵りちらした。
『アッ。あれは、わしの新調の車らしいぞ。誇らしゅう、わしの前を打たせて行くわ。……ちえっ、牝馬め。――媼のくせに、色気づいて、あぶみにも、くつわにも懸らぬ牝馬め』
好色法皇
いま、馬名簿の奏上式が、終わったところである。
天皇は、玉座に、お妃の藤原聖子とならんで、あかるいお顔を見せておられた。