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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
いつ自分も、荒木村重や佐久間父子のような末路に終るかもしれないという危惧不安が――窮鼠の如く、生きんがために、一転この先手を打たせるに至ったものだ――という自己弁護も、彼の良心を頷かせるまでの理由にはなるまい。
ここからわずか五里。目と鼻のさきに当の怨敵は、いとも軽装で逗留している。またなき機会だ、絶好な天運だとする――出来心にも似た野望と自身で意識しては、なおさら神のみ前に祈願はこめられまい。
が、彼の頭脳は、以上のすべてを別として、ほかに自分を正当づける理由を索すのに、さして困難はしなかった。
それは二十余年来の信長の悪い半面だけを罪状として数えることである。わけて信長の極端な文化破壊と旧制度の変革をもって、もっとも大罪として世に問うことだった。
文化人光秀の知性のすみには、多年信長の部将として働いて来ながらも、なお旧文化や旧制度への愛惜が整理しきれず澱んでいた。そしてその跛行的精神を天下一般のもののように誤認し、狭い知性の池に溺れている知性に過ぎないものとはみずから覚り得なかった。
再度、何事の召しであろうと、怪訝り顔に、各隊の部将たちは、呼び込まれた幕囲いの中に、膝つめ合せてひかえていた。