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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
光秀の床几に、まだ光秀のすがたは見えない。いま神前に御祈願中であるから、やがて程なく、これへ渡られるであろうと小姓組の者がいう。
そのうちに、幕を払って、
「やあ」と会釈し、また、
「おう」と、眼顔で挨拶しながら、近側の重臣たちが次々とこれへ入って来た。並河掃部。進士作左衛門、妻木主計などである。最後に光秀は、老臣斎藤利三、一族の光春、光忠、光秋などと一緒にすがたをあらわし、中央の床几に倚った。
「これだけか、物頭一同は」
「左様です」
と、溝尾庄兵衛の答え。
三宅藤兵衛と今峰頼母は、そのとき奥田左衛門尉を振り向いて、何か目じらせした。そして三名ともついと幕の外へ立ってゆく。はてなと怪しむまに、囲いの外は一隊の兵が取り巻いてしまったらしい。光秀の面にもその用意が読まれたし、宿将たちの眼からも明らかにこの中へ無言の警戒が注がれだした。
やがて光秀が口をきって、
「家中は一体、わけてわが手足と恃む旗本どもに、かかる備えをして、談合に及ぶは、水くさしと思うであろうが、天下の大事、われらの浮沈、今に期す大事を打ち明けるためぞ、悪しく思うな」
と、冒頭して、重々しく意中を打ち明けはじめたのである。