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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

わが事成れり」

という勝色の中にどよめいていたが、帷幕のうちの光秀は、祐筆を側へひき寄せて、次々に書状を認めさせ、それに自身が花押して、また、側臣と何か密議しているなど、多忙と緊張の極に、ほとんど、現も知らぬ容子であった。

それでも本能寺の空に煙を見るまでは、彼も、万一を気づかって、諸将とともに、堤の上に佇んで、眸を一天に凝らしていたのであるが、立ち昇る噴煙を彼方に見、すぐ第一の伝令を聞くやいな、

「よし」

と、ひとり大呼して陣幕のうちに入り、それからは、刻々の戦況よりは、べつな方面に向って、大きく頭脳をはたらかせていたものである。

ここにおいての味方の勝ちと、信長の死とは、もう決定的なものと観てよい。それに顧念しているにはあたらない。

主将の頭脳は、より大局に対して、間髪を措かずに、第二のそなえを天下に布く必要がある。この勝利を決定づけ、この大機を政治づけるためにである。

遠くは相州小田原の北条家へ。

四国の長曾我部元親へも、彼はすでに、この帷幕から書簡を持たせて急使を立てた。

いうまでもなく、内容は、

(――天、信長を討つ。呼応して起たれよ。ここにおいて協力あらば、後日共栄あらん)