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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
と、戒めた。
命をうけるや、光忠は直ちに、その旨を城中へ返答した。時、ようやく卯の刻ごろ(午前六時)本能寺の煙をうしろにして、その方面からの軍勢も続々これに加わり、濠の水の繞るかぎり明智の兵馬を見ぬ所はないまでに包囲も成った。
やがて、休戦の不気味なしじまの一瞬を。
親王、若宮の御ふた方、女官扈従を召しつれて、お心もそぞろに、東の御門を出でられ、畏くも内裏まで徒歩でお移りになられた。
唐橋までは、城中の将士がお守り申しあげ、濠の外から先は、明智方の将が護衛して、甲冑の中をお通り遊ばして行ったのである。
血まなこの将兵と剣槍のあいだを女官たちや、まだおいとけない若宮には、いかばかり恐ろしげなお気もちで通られたことか。
が、この朝、父信長を失い、また自身の命も目前に迫っている際に、信忠はよくこの処置に沈着であったものといってよい。
敵将光秀も、さすがは信長の子と感じたらしいが、死せる信長も、まだ漲りつつある余煙の天から「よくした」と、ながめていたかとも思われる。
織田氏族葉の一将校――まだ生年二十六歳に過ぎない信忠に、この沈勇の処置と、臣子の道あきらかな態度のあったことは、いったい何によるものだろうか。