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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
秀吉は舌打ちして、
「たれだ。廊下にいるのは」
「虎之助にございます」
「ああ。そちがいい。虎之助これへ来い」
「はい」
「聞いていたであろう。於市めは嫌だと申す。おまえ、代りにここにおれ。雛の客になってつかわせ」
「はい」
「よいか」
「かしこまりました」
秀吉が起ったので、市松もあわてて起った。唯々としてそこへ坐った虎之助を軽蔑するように、しり目をその背へくれて。
鷺の間は密室である。何か極秘の用談だけを訊くところとされている。山口銑蔵と松江伝介がそこへ入って慎んでいるとすぐ、
「帰ったか」
と、秀吉もすぐ座についた。
銑蔵はふところから一書を取り出して秀吉の前にさしおいた。元より二重三重に桐油紙につつんである。自身、秀吉は上紙をのぞき、また封を切って、
「ああ、久しぶりに、御筆蹟を拝む」
と、まず披くに先だって、額に押しいただいた。織田右府信長の直書であることはいうまでもない。
見終って、
「たしかに」
と、秀吉は、信長の書を、自身のふところに奉じ、それから使いの労を犒った。
「大儀であった。退って休息いたすがいい。――が、信州甲州にあるお味方は、みな赫々と戦果をあげておるか」