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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「あんなもなあ己あ真っ平御免だ。第一お前、月謝を二十円も取るなんて、まるでたけえや」
「だって始めて習うんなら仕方がないわよ」
「なあに、いずれそのうちみんなが覚えるだろうから、そうしたら奴等を取っ掴まえて習ってやるのよ。ダンスなんざあそれで沢山よ。どうでえ、要領がいいだろう」
「ずるいわまアちゃんは! あんまり要領がよ過ぎるわよ。―――ところで『浜さん』は二階にいる?」
「うん、いる、行って御覧」
この楽器屋はこの近辺の学生たちの「溜り」になっているらしく、ナオミもちょいちょい来るものと見えて、店員などもみんな彼女と顔馴染なのでした。
「ナオミちゃん、今下にいた学生たちは、ありゃ何だね?」
と、私は彼女に導かれて梯子段を上りながら尋ねました。
「あれは慶応のマンドリン倶楽部の人たちなの、口はぞんざいだけれど、そんなに悪い人たちじゃないのよ」
「みんなお前の友達なのかい」
「友達って云う程じゃないけれど、時々此処へ買い物に来るとあの人たちに会うもんだから、それで知り合いになっちゃったの」
「ダンスをやるのは、ああ云う連中が重なのかなあ」
「さあ、どうだか、―――そうじゃないでしょ、学生よりはもっと年を取った人が多いんじゃない?―――今行って見れば分るわよ」