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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
わッ――としわがれた咽び声が起った。死者の老いた妻がつっ伏したのであった。黒羽二重の彼女の盛装がかなしかった。日に焼け潮に吹かれたその肌身は、百姓か漁夫に近かった。眉に剃りを当てる間もなく、はげたおはぐろを染め直す余裕もなく――しかし、身なりだけはととのえねば気がすまぬ女であった。
喪主の長男は袴のひざに手を置いて、揺めくろうそくの灯を見つめていた。母の嘆きも聞えぬかと思われる自若とした静かさで、迎えた転変の姿を思いめぐらしているようであった。ふと彼は、鼻先にいる阿賀妻に眼をうつして云った。
「どうなることでしょう?」
「――――」
阿賀妻は咄嗟に返事が出来なかった。何となく一座を見まわしていた。
少年の一言は、石を投げたようなものであった。目には見えぬが、それと覚られる疑心の渦はひたひたと拡がって行った。高倉利吉の自決は云い換れば飢餓の宣言であった。浅ましくそういう瀬戸に立ちいたった自身に対する悔恨が、今になってはありありと頭をもたげた。ここまで連れこまれたものに対して腹立しかった。手っ取りばやくその憤懣のやり場を探した。そして彼らは目の前に阿賀妻を眺めていた。