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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

彼らの抑えとなる合理的なものは一つも無いときになって、今こそ彼らは、腹にたまっていたことをどんなに大声に喋り立てても差支えない。

――それがまた、高倉利吉の妻の心にも映っていた。敢えて叫ぶその大胆さをとどめるものも無いのだ。取りかえしがつかないまで喋ってしまったと気づいたとき、なアに構うものか、そういう不逞ぶてしさで、投げた石の手答えを待っていた。人生に年処を経たこの女は、耳を澄し、呼吸の根をつめていた。だが、あたりは沈うつな静かさに墜ちていた。さきほど確かに見えていた二三の男の不満な気持はぬけぬけとしたこの女の喚きに却って鎮まっていたのだ。すると突然彼女の不平だけが大きく、抜きさしならぬ反逆の塊りとしてそこに転っていた。まぎれもなく殿様の面前であった。家中の列座した中で「おなご」が吐きちらした暴言であった。彼女は自分のやったことに気づいて、その結果に思いを馳せたとき、はじめて胸苦しくなり、心が遠くなった。ほんとうに逆上した。うつ伏していた歔欷がはたと停って、彼女は首を立てたのだ。むろん血の気は無かった。がたがたとふるえ、灰色の眼が眉とともにひきつって来た。