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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
眼がかすんだのだ。ぶるっと頭を振って、心弱いものを弾きおとすようにして彼はうしろの松岡や門田たちに叫んだ。
「さア、撒いたッ、撒いたッ」
必要な格式は済んだのだ。お祝いの餅まきがはじまったのだ。集まった人たちはただこれだけを待っていた。彼らにとって棟上げと餅撒きは同義語なのだ、当事者もまた高らかにそれを謳って置きたい。ゆたかでもない出納勘定のうちから多少の無理を承知のうえで搗きあげた餅であった。今日の、ただこの喜びと賑いに備えていたものである。
「よし、来た」と彼らは一斉に立ちあがった。
下にいる多勢のものは、顎をつきあげ、上にいるものの顔色を見るのだ。彼らは彼らの考えで、気前がよく与し易げな人ていをそこに見わけるのであった。そしてその下にそれぞれに駈けあつまり、何ということなしにひしめき合っていた。それに応ずるように、上のものは大げさな身ぶりで叫ぶのであった。
「そーら」
「はじめるぞオ――」
「こっちだ、こっちだ」と、反対側はなお更景気よくどなっていた。
今は双方ともとっておきの陣立てをきめて、あらしの前の静けさのように身ゆるぎもせず、顔を見あわしている。