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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

おのずと彼は、裏側になっている川に面した方に出ていた。ひやり――と、川面をすべった風が、はだけた胸の汗ばんだ肌をくすぐった。いつの間にか陽も傾きかけていた。ひろい川面は、その西から北にあたるところに、街の屋並みと粗林の木々と、――噛みつくような崖の岸を持ち、日没はいち早く片側を黒くしていた。風は波をおこし、波は風を冷たくし、おッ? と、驚くほど清涼に吹きあげて来る。浮かれていた気分がぐっと地底にひきおろされる。

裏では、女や子供の疳だかい叫びごえがおいおい間遠になっていた。ひっきりなしに、砕けたり散ったりしていた歓声にもそろそろ終末が来つつあったのだ。もとより投げる餅には限度があった。それももう残り少なくなっているのであろう。この面白さに思わず惹きこまれたような男たちのだみ声ももうさっぱり響いて来なかった。子供だけがはてしなく喚いているのである。ついに俵をはらう音さえぱたぱたと聞えて来た。

松岡長吉は何ということなしに手くびで、職人のように鼻の孔をこすりあげた。自分の身体のなかに、自分でさえどこかはっきりと云えない、風の吹きぬけるがらん洞が出来たような気がした。