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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「どの方角?」
「この――」と彼は腕をのばした。
指さす方角に添って阿賀妻は磁石をのぞきこんだ。戸田老人は地図をひろげるのである。玉目三郎は、青く書きこまれた川を辿ってその方向をのぞいていた。
「この山――トウベツ山のふもと」
「ふん、どれ、念のため――」と大野順平もヤチダモの樹にのぼって行った。
あぶなかしく足をささえて、彼は樹上の人夫に重なって、そのものの指さす方を眼をしかめて見入った。
なだらかに波うっている一帯の山つづきであった。湧きだした雨雲の下に、あお黒く静かに拝み合っているひとつの峰がそれであった。
「あれに間違いはないか」と彼は片手を脇差にかけて見せた。
「山の恰好がそう変っちゃたまらない」
「しかし、貴様の見たのは冬だというではないか」
「夏だってあなた――遠くからみれば同じことです、第一、あそこには、あれより高いのは無えんだから」
「では許してつかわす」
「冗談でしょう――」と彼らはおりて来た。
高いところで見渡すと、それは指呼の間にあった。けれども、野の中に身を没してしまうと、はてしもなく遠方に離れているのだ。見えるものは、草また草のひと色である。