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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
横ッとびに駈けて、彼は自分ら大工の下小屋をのぞいた。
そこには黄昏が漂っていた。その中で、ひとりぼんやり、玉目トキが酒肴の番をしていた。
彼はそのことには別に不審も抱かず、自分の気になっていることをずけずけと、男の人に云うようにたずねるのであった。
「おぬし、ご家老はどちらか、ご存じないか?」
「さきほどお役所の方が見えられて、ご同道になりました」
「ふーん」と、松岡長吉の丸い眉の下ではまなざしの色が沈んでいた。しかし彼は、「いや、なに」と大きな声で云って気を取りなおした。快活な口調になって彼は云った。
「さア、そのご馳走――ならべたり、ならべたり、棟梁が無くてはお倉が建たない――ッ、てね、酒はいくらでもある」
そして彼は、彼の仲間のうしろに混っている若ものを見い出だした。お膳代りに使う四分板をならべはじめた高倉祐吉を、松岡は、うしろから肩をたたいて、「ちょッと――」呼んだ。
「はい」
「なにも、びっくりしなくてもよい」と松岡は一歩退きながら云った、「おぬし、一ぱい飲んだら、役所に行って見てくれんか、ご家老をお呼びして来てくれまいか」
「すぐ、行ってまいりましょう」