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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

だがその阿賀妻は、まだ相手を喜ばせるに足るだけの反応をあらわさなかった。思考のすじ途がとてつもなく距っていた。堀大主典がカラフト問題を喫緊とするならば、阿賀妻は何とか目鼻の見えて来た移住の諸問題を一気に解決したかった。この男を手づるにしておくことが、そのために必要であった。

彼は、今しがた役所から受け取った金について考えていた。基礎工事の折に受け取った三分の一は、うっかりしていると、その後の諸雑費や雑用に消えてしまいつつあった。家中のものの労賃は見積ってなかったが、傭い入れた棟梁はもとより、その折々の特別な技術についてはその道のものを呼ばなければならなかった。すると、どこかで無理をしなければ最初の予定どおりの運用は出来なくなるのではないか。契約によれば、あとに残った金子は倉庫の引き渡しと同時に受け取ることになっている。それをべんべんと待つまでもなく、明日にもオダルに出向いて糧食購入の方途を立てるべきであろうと考えた。折柄間もなく新穀の出廻り期を控え、相場の動きも顕著であろうと思われる。思い立つ日が吉日であった。明日――と彼は思うのである。そのとき彼は、今回の普請に流送人夫をやってのけた大沼喜三郎を考えていた。