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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
遮るように云うものがあった。
「――それでは棟梁をどうなさる?」
松岡長吉はその声に向って、急にぶるぶると怒り、小柄な身体をけだもののようにふくらました。云いかけたものはそれに気づいて口をもぐもぐさせた。――棟梁送りはどうなるんだ、と、わかりきったことを咎めていたのだ。しばらく睨めていた松岡は、うん――と、くびれた顎をしゃくった。忘れたわけでもないものをまるで失態のようにつつかれると、彼の自尊心は火のようにのぼせ上るのだ。そして彼の腹のなかでは、どうしてくれようという狂暴なものが頭をもたげ、よしと、その方法もきまってしまった。あてがい扶持の低い家禄のものとして、余裕のないその日その日は、気の持ちようまでもぎすぎすさせ一図にさせたのだ。ひびき渡る声で彼は云った。
「拙者が、送ってつかわす」
額に血がのぼったにちがいない。そこへ夕映えが赤くぎらぎらときらめいた。彼は跳ねあがったのである。彼の両の掌は、へっぴり腰を立てた酔眼の棟梁を殴りつけていた。交互にぱたぱたと、霰れのように、肉の鳴る音がひびくのだ。何かを呻いてげっと俯伏せになる酔漢の腰をけとばしていた。